駐在員家庭にとって、子供が小さいうちはそれほど気にならないが中学高学年、また高校生ともなると、平均して3年~5年と言われている駐在期間が急に短くなる可能性があることは常に大きな心配の種である。いざ現実となってしまうと、日本の大学への受験条件、高校卒業資格、アメリカの大学への進学希望等、子供のその後の将来に大きく関わる現実的な問題から、アメリカの生活に慣れ、英語も上達し、仲のいい友人達もできてこちらの高校を卒業したいという多感な年頃の本人の希望に至るまで問題は複雑となる上、限られた時間での決断を迫られることになり、よくこのよう相談を受けることがある。今回は、そんな起こり得る将来の事態に備え、必要であれば今からできる準備も含めアメリカの高校とビザの関係について、代表的な相談例とともに説明してみたい。 相談者:駐在歴4年3ケ月(相談時)の駐在員家庭、家族構成:父、母、長男(15歳、ハイスクール9年生)、現在のビザの種類:E-2ビザ   Q:急な帰任辞令で3か月以内(相談時3月)に日本へ帰国しなければならないが、長男が在留してアメリカの高校を卒業するにはどのような選択肢があるか? A:選択肢1 ボーディングスクール(寮のあるプライベートスクール) 時間的に間に合うようであれば、子供のみ在留する場合でビザの面、生活の面で一番容易な選択肢である。学校より入学許可と同時にF-1(学生ビザ)申請に必要な書類I-20が発行され、まず問題なく卒業できる年度までの在留資格が得られる。 全米には東海岸、西海岸を中心に教育水準の高いボーディングスクールが多く存在する。冒頭で述べたように多くの学校の願書締め切りが1月中旬頃までと時間的制約がある。また入学願書に添付するためのTOEFL、 SSATもしくはISEEのテストスコア、学校からの推薦状、本人、保護者の面接予約等準備にかなりの時間を要する。上級学年になればなるほど入学枠が狭まる。また平均して年間4~6万ドルの高額の学費(寮費含む)等、時間に加え、経済面も考慮に入れる必要がある。尚、願書締め切り、提出書類、テストスコア等は学校により様々で、学費援助プログラムのある学校もある。 A:選択肢2 プライベートデイスクール(通学) 上述のボーディングスクールとビザの面での容易さは同様。この場合も準備期間は必要だが、学費は約1~6万ドルと様々、学校数、入学時期等、ボーディングスクールよりは選択肢が増える。ただし、子供のみFー1ビザで在留する場合には、ホストファミリー探しが必要。尚、母親が在留する場合は、母親が新たにその他の非移民ビザ(F-1, H1-B等)を申請する必要があり、子供のF-1ビザによるF-2ビザ(同伴家族)の申請は認められない。 A:選択肢3 公立高校 赴任時の学校選びの時点で、多少通勤時間が長くなっても、兄弟全員確実に通学でき、教育水準が高く、環境もいい上、家賃も割安という理由で郊外の公立校を選択する駐在員家庭が多い。しかし、公立高校では、前述した母親が新たなビザを取得して一緒に在留する場合を除き、子供のみが在留する場合、ビザの問題に加え、新たに居住証明(Residency)の問題、両親以外の法的保護者(Legal Guardian)を見つける問題が生じるので、一番難しい選択肢となる。 公立校は、その地域に居住する世帯の子供(5才~21才まで)の教育を目的としており、授業料がかからない。したがって学校側からは、両親または法的保護者がこの地域に居住していることを証明する書類の提示が求められる。一般的には、両親または法的保護者の氏名住所が明記された光熱費の請求書等と、家の権利書もしくは賃貸契約書のどちらかの提示が必要とされる。義務教育という観点から、両親または法的保護者が居住する住所のみが、その世帯の子供が居住する住所とみなされる。よって通常は両親が日本へ帰国した時点で、家族全員の居住証明が消失しその時点で今まで在籍していた公立校への通学ができなくなる。通学を継続するためには、例外を除いて、友人家族宅に住みながら通学というようないわゆるホストファミリーだけでは十分でなく、居住区内での新たな法的保護者(裁判所で認められた)が必要となる。公立高校であっても、高校最終学年に在籍中、もしくは1年以内に卒業見込みのある場合、定められた授業料を収め、一定の条件を満たす場合等、例外として通学を認める高校もある。 この他に、公立高校の特例として上述とは別に、J-1(交換留学ビザ)とF-1ビザ(学生ビザ)がある。 J-1ビザ 公立高校の中には、J-1ビザを認める学校も多く、この場合、法的保護者ではなくてもプログラム上の居住区内ホストファミリーで通学が認められ、この制度を利用する選択肢もあるが、この制度は海外からの交換留学生を対象としている点、F-1ビザの取得歴のない学生を対象としている点は注意が必要だ。尚、J-1ビザの場合、授業料は無料だが、一学年度のみの在留資格となり、引き続き在留するためには、その後新たなビザの取得が必要となる。 F-1ビザ 公立高校でもI-20を発行する学校が僅かにあり、F-1ビザを申請することも可能だが、取得できたとしても、公立高校で在留できるのは規定により一年のみで、学校により納める授業料は異なる。(以下各地域の情報を参照) 仮にあと2学年で卒業できる可能性(11年生での早期卒業、または高校卒業資格試験等)があれば、J-1、F-1ビザのどちらかもしくは両方を利用して高校を卒業できるかもしれないが、この場合でも、ビザの発給、在籍高校のJ-1, F-1ビザ通学の受け入れ態勢、卒業までに必要な単位の取得、ホストファミリー、学費の負担等々、様々な条件をクリアすることが前提で、かなり難しい選択肢となるため、公立高校在籍中、もしくはこれから通学予定の場合は、事前もしくは早めに一度確認されることをお勧めする。 以上は、すべて非移民ビザを前提に説明してきたが、例えば今回の相談者のように、保護者のいずれかが企業の管理職、経営者に発給されるEもしくはLビザ保持者の場合、一定の条件を満たせば、比較的短期間で、家族も一緒に永住権取得が見込めるビザの種類もあり、子供の将来のことを考えて就学就労が自由で米大学の奨学金の対象にもなる永住権への切替えを希望する場合は、永住権取得者の義務も理解した上で、早めの準備を推奨する。 注意:この記事は2017年10月現在の情報です。無断掲載禁止 同内容の記事をニューヨーク便利帳Vol.26(2018年版)、オハイオ・インディアナ・ケンタッキー便利帳Vol.12(随時発行後追加)にも掲載しております。 参考リンク NICHE:全米の公立、私立の学校を種類、地域、目的別等検索でき学校選びに便利なサイト(英語) TABS:全米のボーディングスクール各校の情報、募集要項、カタログ請求等ができるサイト(英語) REDAC お子様連れのお客様:子供のいる赴任家族向け学校情報を載せた日本語のサイト 各地域学校令は以下を参照 J-1・F-1を認める公立高校例 地域別 ニューヨークシティ近郊(NJ・CT含) オハイオ、インディアナ、ケンタッキー シカゴ、デトロイト  

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